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第2回メンタルカレッジ 講演

 認知症の予防と早期発見・早期治療
           ~映画「明日の記憶」から学ぶこと~ 概要


今回のテーマは認知症です。

映画「明日の記憶」を題材としてお話をしていきますが、この映画を観たことがある人はいらっしゃいますか?
 私は「映画と精神医学」というテーマで、月に一回、長崎新聞で連載をしていますのでそちらも興味のある方はご覧ください。

 最初に、「明日の記憶」のシーンを観ていただきます。映画というのは娯楽、芸術であり、医療ドキュメンタリーでは無いですから、医者から見ると、やはり、ある程度の演出上のフェイクがあります。だからと言って、映画に問題があるという訳ではありません。

 しかし、この「明日の記憶」という映画にはフェイクがないんですね。

「認知症」を勉強する教材して凄く良いものです。本日は都合上、全て流すわけにはいきませんので、医療従事者として参考となると感じる部分を選んでお見せします。

 本日の講演の目標は、ご自分で認知症の検査ができるようになることです。そんなに難しいことではありません。認知症の人は段々増えてきていまして、今後、一千万人に届くかもしれないと言われています。認知症の問題として、誰が面倒を見ていくかという課題がありますが、なかなか解決策はみつかっていない現状があります。


●認知症の「予兆」

まずは認知症の「予兆」についてです。

例えば映画にも、主演の渡辺謙さんが人の名前を思い出せないなどのシーンがありますが、「度忘れ」は認知症の症状としてはあまり問題ではなく、心配することはありません。

「ちょっとした物忘れ」ではないエピソードが問題となります。

 知的な能力には個人差があるので、人によって物覚えが良い、悪いという違いはあります。例えば、「約束の時間を忘れる」というように、部分的なことを忘れるのは大きな問題ではありません。しかし、映画にもありましたが、「約束の時間をもう一度変更したということ自体、全体を忘れる」のが問題になります。

「物事の部分的なことではなく、全体を忘れる」ということです。



●認知症と間違えられやすい病気

「うつ状態」は認知症の初期状態に間違われやすく、「仮性痴呆」ともよばれます。
 認知症の症状には、記憶力や判断力が落ちたり、「うつ状態」や「せん妄」が現れる、怒りっぽくなったり、徘徊したり、幻覚を見るなどの症状があります。



●認知症の症状・検査

 症状についてもう少し詳しくお話します。
位置を覚えられなくなったり、遠近感が狂ったり、人がうまく認識できなくなります。


また、「せん妄」とはいわゆる寝呆けの様な状態で、「場所」や「時間」などの感覚がわからなくなり、混乱したりします。

 認知症の患者さんとの面接の中で、「桜」「猫」「電車」などの言葉を暗記してもらい、これをもう一度思い出してもらうという質問をすることがあります。思い出すのが困難な場合、認知症の治療の対象となる場合があります。
 認知症が「初期」「中期」「後期」と進んでいきますと、「中期」に徘徊や怒りっぽくなったりする症状が見られます。


 記憶が無くなることは本人にも負担がかかりますが、介護する人にも負担がかかります。介護においてこれらの負担をどう取りのぞくかということが重要な問題です。寝たきりの場合は、逆に介護がしやすくなるとも言えます。

 認知症の進度は個人差があり、1~2年の方もいれば、10年の方もいます。今の治療の中心は、その進度を後らせる事です。

 その他の症状として、約束を忘れたり、寝られないなどの症状もあります。寝られないという方の中には昼に寝ている方もいて、そういう方は生活リズムを治すようにしています。
 「認知症=せん妄」ということではありません。せん妄は一過性の症状で、高熱が出た場合などにもせん妄が見られることがあります。体調が良くなれば、次第にせん妄も良くなります。


 患者さんの中には、「物盗られ妄想」を抱く人もいます。女性は通帳が盗まれたと言ったり、男性は妻が寝取られたと訴える傾向があるようです。これは、その人にとって一番大事なもの、関心があるものが妄想の内容につながりやすいということです。

 認知症にかかった脳は実際にどのようになっているでしょうか。
亡くなった人の脳を解剖すると、すかすかになって萎縮しています。
 例えばおたまじゃくしのしっぽが蛙になって消えていくように、自然と萎縮していきます。MRIで見ると、脳室が拡大し、脳のしわが開いています。これは初期・中期でもあらわれます。

 また、脳にも「しみ」ができてきます。アミロイドが蓄積することによって脳の細胞が溶けるように死んでしまうのが、アルツハイマー病の本態です。これを見つけたのがドイツのアルツハイマー先生です。当時は非常に珍しいものでした。
 また脳の血液の流れる分布でアルツハイマーかどうか調べられるスペクト(SPECT)という機械もあります。

 簡単な検査方法には、ある時刻の時計の絵を書く、複雑な図の模写をする、動作を真似するという方法があります。身体的な感覚が無いと上手くできないものです。
 MRIの検査などは細胞を取って直接調べるものではないので、やはり100パーセント確実なものとは言えないです。


 アルツハイマーの告知は患者さんにとって受け入れがたいものです。なりたくない、嫌だと感じる病気は否認されることもあり、検査を受けても本当のことを聞きたくないという場合があります。心の病と見られるものは、自分の弱さを曝け出すように感じられるようでなかなか難しいようです。

 また、介護問題というのはやはり大きな問題で、世話されるのが苦痛だという患者さんもいて、なかなか自分が病気だと認めない方もいます。

 高齢のアルツハイマーの患者さんの人生を知ることは大事で、診察の時にその話をすると心を開いて話してくれることがあります。


●認知症の治療

 認知症には治るもの(ホルモン異常、ビタミン欠乏症、硬膜下血腫、水頭症)と、現段階では、治らないもの(脳卒中によるもの、神経細胞の減少によるもの)があります。
 早期の受診が重要となります。

 「アリセプト」というアルツハイマー治療薬があります。これは認知症の進行を遅らせる効果があります。認知症の薬では世界中で売れています。この薬は早めに飲むのが良いです。

 認知症を治すにはどうすればよいのでしょう。
 まず、予防ということです。今のところ、まだ良い治療はありませんが、ビタミンを摂ったり、ホルモンバランスを整えるとなりにくいと言われています。

 転倒して、頭の血管が切れ、脳を血液が圧迫して認知症が進むこともあります。
とにかく認知症を治すためには早期の治療が必要です。

 認知症の治療には心理療法も用いられ、「音楽療法」や「回想法」というものがあります。回想法とは、自分の昔の思い出を振り返ることによって自己認識を回復する方法です。患者さんには、過去の記憶は鮮明に覚えている方がいらっしゃるので、有効です。また、家族も参加できるので、家族の方の精神的なケアという意味でも良いものです。



●認知症を生きる

 難しいことですが、認知症と付き合うヒントをご紹介します。

「ぼけと付き合う本音10か条」・・・「ぼけ老人をかかえる家族の会」より


1.三歩離れてじっくり介護
 
 お年寄りのなすがままに振り回されずに、冷静に対処すること。三歩距離を置くつもりで。

2.「愛情が第一」と言うけれど

 急に人格者にもなれず、腹も立ち、動揺もし、いらだつのが普通です

3.周りの言葉に惑わされずに

 はたから見ての意見や誤解には「やってみたらわかる」くらいに聞き流し、自分の介護に自信を持つこと

4.家族の暮らしあってこその介護

 介護疲れ、経済破綻は敵です。家族の暮らしを壊さぬよう、小さい負担を多くの人で。

5.女性中心ではなく、男性の力も

 介護は家族全員の仕事です。とりわけ息子であるご主人の力が必要です。

6.「その日」暮らしの精神で

 あまり先のことを考えすぎないように、ある意味では「その日暮らし」に徹することです。

7.出来る手抜きは、勇気を持って

 家事がきちんとできなくて当たり前。有効な手抜きを考えて息が続くようにしましょう

8.励ましあい、助け合う仲間の輪

 他の介護家族との交流、励ましあい、助け合いが力に。相談できる人を持つことも支えになります。

9.私でなければ・・と抱え込まない

 一人で抱え込んで共倒れになることも。介護しながら自分の生きがい、楽しみも大切に。

10.楽しく知恵比べ

 お年寄りに安全で、効率的で安全な介護を考えましょう。ちょっとした工夫で介護が楽になります。


次に、アルツハイマーの患者さん自身が発表した「アルツハイマー病患者からの10のお願い」という言葉があるのでご紹介します。


「アルツハイマー病の患者からの10のお願い(アメリカ)」

「ぼけ老人をかかえる家族の会会報 三宅貴夫先生より」

1.私のことで我慢してください

私は脳の病気をもった、自分ではどうしてよいかわからない患者と思ってください

2.私に話しかけてください

私はいつも返事ができるとはいかないかもしれませんが、あなたの声は聞こえ、言葉は理解できます

3.私に親切にしてください

毎日が長い絶望的なたたかいです。あなたのやさしさは日々とても大切です

4.私の気持を思いやってください

私の感情はしっかり残っています

5.人としての尊厳を認めてくたさい

私だったら寝たきりの患者にそのようにします

6.昔の私を思い出してください

私もかつては能力もあり、知性もあり、健康で、人生は愛と笑いでいっぱいでした

7.今の私をわかってくたさい

私は誰からも忘れられていないかと不安を抱いています。私はあなたにとって愛する夫、妻、母、祖父、祖母、叔父、叔母であり、あるいは友人でもあります

8.私の将来を思ってください

これから先は暗いようにみえるかもしれませんが、私はいつも明日への希望でいっぱいです

9.私のために祈ってください

私は日々の流れと永遠の間に漂う霧のなかで迷っています。どのような同情よりあなたが居ることがとても大切なのです

10.私を愛してください

愛という贈り物によって私たちは永遠に光で満たされます


とにかく痴呆を諦めないで治療してください。脳の細胞は程度の差はあれ、高齢でも再生します。

 ご静聴ありがとうございました。

 (お話:小澤寛樹先生 平成21年6月23日 長崎歴史文化博物館にて)画面topに戻ります
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